旧記雑録ガイド特別編/2026年9月10日
2026年7月9日の会話を読み返すと、私はAIに「譜」の意味や、OCRとは何かを尋ねていた。史料に出てくる言葉も、画像から文字を取り出す仕組みも、教わりながらの出発だった。
その約二か月後、私は「AIが次の作業前に読む注意書き」を作り、外付けSSDに研究用の作業場を整えるところまで来ている。古い史料を読みたかったはずが、いつの間にか、読む人ならぬ「読むAI」の引継書まで書いていた。
私はAIの専門家でも、島津氏研究の専門家でもない。そんな個人がAIの力を借り、『旧記雑録』を検索し、原文へたどり着ける「旧記雑録ガイド」を作ろうとした。その過程は、思った以上に作業が進む驚きと、思いがけない間違いを直す繰り返しだった。
今回は、残っている会話、修正報告、失敗事例の整理、保存環境の移行記録をもとに振り返ってみたい。「二か月」は7月から9月までの大まかな区切りで、最初の着想日や総作業時間を正確に測った数字ではない。
1.欲しかったのは、史料にたどり着く入口
やりたかったことは、一つの文書について、番号、年月日、標題、登場人物、短い概要、キーワードなどを整理することだった。7月9日には、こうした項目に、PDFファイル名、冊子の頁、確認度などを加えた表をCodexに作ってもらうための相談をしている。
「pdfファイルも自動で読み取っていってもらえるなら楽ですけどね。」
当時の私の言葉である。大量の頁を前にして抱く、ごく素直な期待だったと思う。
文書の一覧があれば、気になる人物から関係史料を探せる。概要があれば、その文書を詳しく読むべきか見当を付けられる。元の頁へ戻れるリンクがあれば、概要の説明を原文と照らし合わせられる。いずれは人物事典やコラムにつなげ、ほかの人にも使ってもらいたい。
ところが、一文書を一行にするだけでも、まず「どこからどこまでが一文書なのか」を決めなければならなかった。同じ番号の扱いを別の冊へ持ち込めるとも限らず、表題が折り返されることも、本文の続きが別の段に現れることもある。入口の案内板を作るつもりが、その前に廊下と部屋の境目を確かめる仕事が待っていた。
そして、こうした試みの土台には、史料を集め、編纂し、整理し、公開してきた研究者や史料館、図書館などの仕事がある。AIがそれを一から用意したわけではない。私は、その蓄積へ近づくための入口を作ろうとしていた。
2.思った以上に進み、考察の材料も増えた
保存されたサイトの更新履歴を見ると、7月15日には初期版の公開が記録されている。文書を検索し、詳細を開き、原文PDFへ進む形ができていた。その後、複数冊を横断して探す機能が加わり、7月31日には、生成AIが根拠となる文書を挙げて回答する機能を追加した記録がある。
ここでいう検索は、概要や人物名、キーワードなどの整理データを使った検索である。原史料の本文をすべて文字に起こし、全文を漏れなく検索できるようになった、という意味ではない。それでも、分厚い冊子を順に開く以外の探し方ができたことは、大きな前進だった。
8月22日には島津義久の和歌と連歌を扱うコラム、翌23日には石田三成のコラムと、人物事典の新設が更新履歴に現れる。9月2日には、大坂夏の陣と真田幸村を扱うコラムの公開記録も残る。これらは当時の公開・制作記録によるもので、今回の記事執筆でサイトの全機能や各史料の解釈を改めて検証したわけではない。
それでも、一覧を作るところから、人物をたどり、複数の文書を材料に読み物を作るところへ広がったことは確かだ。AIの助けがなければ、同じ範囲へ個人で手を伸ばすには、ずっと大きな負担があっただろう。これは比較実験の結果ではなく、作業を続けてきた私の実感である。
Codexで特に助かったと感じるのは、毎回すべての操作を人間が指示しなくても、ある程度まとまった処理を続けられることだった。資料を分け、表を作り、照合し、次の対象へ進む。その繰り返しを任せられるのは魅力がある。
ただし、寝ている間に処理が終わってほしいというのは、私の回顧メモにも残る理想である。夜通しの無人処理が、求めた精度で安定して完了していたと証明する記録ではない。進み続けてくれる頼もしさと、進んだ結果が正しいことは、やがて分けて考えるようになった。
3.間違いは、一文字から全体へ広がる
最初に悩まされたのは、目録の対応ずれだった。
目録は、番号、日付、分類、表題などが狭い場所に並ぶ。空欄もあれば、長い表題の折返しもある。私の回顧には、隣の列の日付を拾ったり、下段の文字を上段の表題へつないだりした経験と、「100文書くらいずれてしまうことがあった」という記述が残っている。
この「100」は本人の概数であり、当時の全差分を数え直して確定した件数ではない。ただ、対応が連続してずれる問題そのものは、別の具体的な記録からも確認できる。
追録7の受領報告では、目録の折返し末尾にある「ズ」を別の項目として数え、後続の文書との対応がずれた例がある。対処は、原目録の画像へ戻って折返しをつなぎ直し、後ろの対応が再び合う地点まで確認することだった。
一文字を読み違えたとき、その一文字だけを直せば済むとは限らない。余分な一項目を作れば、次の文書へ別の標題を付け、その次もまたずれる。表の行は整然と埋まっていく。整然としていることが、かえって発見を難しくする。
本文の境界でも似たことが起きた。後編3には、ある文書の末尾の宛書を次の文書へ置いてしまい、保存値を訂正した記録がある。後編2のNo.185・198・216では、同じ原頁の上段から下段へ続く部分が、文書別PDFから落ちていた。
この後編2の例では、「原頁をまたぐはずなのに、文書別PDFが一頁しかないもの」を調べる検査があっても、同じ原頁の中で起こる欠落は拾えなかった。検査結果の「ゼロ」は、その検査で見つかった件数がゼロという意味だった。どんな欠落もない、という意味にはならない。
何を一件として切り出したかが誤っていれば、その後のAIは、欠けた本文や隣の文書を熱心に読むことになる。読む力を期待する前に、読む材料が正しく渡っているかを確かめる必要があった。
内容にも、もっともらしい補いが入った。伊地知季安著作史料集1の文書77では、旧概要にあった「賭博」を、本文にその語がないとして削除した記録がある。禁止事項を扱う文書だからといって、ありそうな禁止事項を追加してよいわけではない。なぜその語が入ったのかまでは、残った変更記録だけで断定できない。
人物や家族関係も難しかった。後編4のNo.1645を、光久の出生や母に関する記事と読み、別の文書との食い違いを「異説」のように扱っていたものが、忠恒の娘たちを列挙する記事として訂正されている。史料同士の説明が違う理由を考える前に、そもそも別の人物について読んでいないか、確かめる必要があった。
同名、通称、別名、官途が重なる人物整理では、名前が合うだけでは足りない。年代、その人物の活動時期、親族関係、相手との関係を見る。私自身も基礎知識を学ばなければ、立派な文章になった取り違えを、そのまま受け取ってしまう。
4.「完了しました」の中身を読む
もう一つ大きかったのが、「読んだつもり、処理したつもり」の問題である。
史料集8の回顧では、概要などを規則的に生成する処理が、確認度の「高」や一律の精読済み注記まで設定していたことが、コードと保存記録から確認されている。そこに挙げられた再確認対象を、すべて誤読、あるいはすべて未読と断定したわけではない。問題は、本文を確かめた証拠に見える表示が、内容の生成と一緒に作られていたことだった。
表を埋めた。画像を表示した。文字を判読した。意味を判断した。概要の根拠を確認した。
人間が期待する「精読」は後ろの段階まで含む。しかし、残る記録が前の段階だけなら、「完了」という言葉だけでは、その間を埋められない。一覧の枠組みや簡易な値を用意する作業と、原文を詳しく確認する作業も、同じ完成扱いにはできなかった。
AI側の実作業をログから振り返ると、プログラムの処理が終わったことと、依頼者が求めた読解が終わったことの食い違いが見えてくる。AIが内心で何を思っていたかを想像する必要はない。何を入力し、何を調べ、どの値を書いたかを追う方が役に立つ。
監査するAIを追加しても、それで終わりにはならなかった。史料集1の70-6では、二月の日付を卯月へ直す監査案が出たが、後の裁定で「卯」は干支の一部と判断され、月の訂正案は退けられている。後から出た答えが、必ず正しいわけでもない。
いまは、概要の各記述を原文へ戻して確かめると同時に、原文から概要を見て、大事なことが抜けていないかも確かめる方針にしている。書かれた誤りと、書かれなかった重要事項の両方を見るためだ。
そして、不明は不明として残す。まだ読んでいないのか、字が読めないのか、字は読めても意味が決まらないのか、本当に記載がないのか。空欄を埋める能力と同じくらい、空欄の理由を残す能力が必要だった。
5.人間とAIの仕事を、少しずつ組み替える
ChatGPTで相談して方針を考え、Codexでファイルを扱う実作業を進める。さらに、作成、精読、監査、最終的な採否を分担する。作業が増えるにつれて、AIを一つの窓口に全部任せる以外の使い方を試すようになった。
9月の記録には、原文を読む担当と、その結果を監査する担当を別のモデルへ割り当てる指示も残る。ただ、それを特定モデルの万能さの証明にはできない。監査担当が同じ誤った切抜きしか見られなければ、入力から消えた内容を見つけられない場合がある。先行する答えを見たかどうかも、検査の条件として残す必要がある。
司令塔を置く方式にも、向き不向きがあると感じた。今回の失敗報告の回収・統合では有用だと感じる一方、史料集や追録の解析では、精度を求めると単体で進めるより時間効率が悪くなった、というのが私の回顧である。厳密な比較時間を測った結論ではない。
原文を精読する工程と監査を分け、疑義を記録し、原画像へ戻って採否を決める運用も進められた。ただし、方式を一度切り替えて全工程が改善した、という一本の成功談にはできない。どこまで分担し、何を渡し、誰が採用を決めるかは、今も調整している。
正確な総作業時間は算出していない。AIの実行時間、待ち時間、並行処理、人間の確認時間を分けた記録がそろっていないからだ。7月には目録と指示文を相談し、8月には概要の訂正や人物事典、コラムへ進み、9月には監査と失敗事例の整理、保存環境の作り直しまで行っている。この日程だけでも、一瞬で終わる作業ではなかったことは伝わると思う。
人間の仕事も、読むことに加え、ルールを決め、結果を疑い、修正の根拠を確かめ、次へ渡す仕事が増えた。利用枠を気にして作業を区切ることもあった。どれだけ節約できたかを数字にはできないが、「AIに任せる仕事」を成立させるための仕事が、想像以上にあった。
6.ついには、SSDの中に作業場を作り直した
文書の整理が進むと、文書以外のものも増える。原本PDF、切抜き画像、概要の表、訂正前と訂正後の版、監査記録、サイト用に変換したデータ、処理の途中で作ったファイル。整理を頼んだ結果、整理に必要な資料もせっせと増えていった。
Cドライブの容量を圧迫している、という問題意識は「Dドライブの研究データ棚卸し」の最初の依頼にも書かれている。同時に、どのファイルを基準に続きを作るのかを、後からたどれるようにしたかった。大きなファイルを外へ出すだけでは、この問題は解決しない。
9月9日から10日にかけて、Phase1からPhase5と呼ぶ段階に分け、保存と運用の見直しを進めた。移行前の保存記録には、PDFや画像、表、プログラムなどを含む52万9213ファイルが載っている。これは史料52万文書を読み終えたという数字ではない。研究を支えるファイルが、それほど多くなっていたという数字である。
まず以前の状態を保存し、その保存点は書き換えない。原資料、加工用のコピー、整理データ、固定した成果、過去版、判断の記録を、それぞれの役割に応じて置く。どの版を使い、どこから作られたものなのかを台帳でたどれるようにする。別の保存媒体へのバックアップも、何を保存し、どこまで復元を確かめたかを記録した。
ここでも、「コピーできた」と「仕事を再開できる」は別だった。ファイルが同じ内容で複製されたかを照合し、代表的なPDFを作り直す試験も行った。それでも、すべての古い処理がそのまま動くと確認できたわけではない。同じパソコンでドライブ名を変える試験は行ったが、別のパソコンでの実機確認はまだ行っていない。
SSD側でサイトを動かす試験では、一部の表示を確認できても、別の起動処理が拒否され、全体としてはエラーになった記録がある。最終的には、新しい研究は外付けSSDを中心にし、現用サイトはCドライブの既存環境で続ける方針にした。Cにある旧研究資料も削らず、今回の移行を一区切りとした。
したがって、「SSDへ移したので容量問題も読み違いも解決した」という話にはならない。未同期の版や、どれを基準にするか決まっていない資料は、その状態を残している。保存が整ったことと、史料の解釈が正しいことは別である。
この経験で、AIへの長い指示文だけでなく、AIがどのファイルを開くかも管理しなければならないと分かった。正しい指示を渡しても、古い版を読んでいれば、直したはずの誤りが戻ってくる。引継ぎに必要なのは、作業の説明と、説明に対応する実際の置き場所だった。
7.失敗を、次の作業の注意書きへ
今回の失敗事例整理では、Codex側の41報告に含まれる462の報告単位と、私やChatGPT側から出した38の整理項目を扱った。これは、失敗が合計500件あったという意味ではない。同じ訂正を複数の担当が報告したもの、適切に保留した例、助言の修正、まだ試していない改善案も含まれる。
報告を集めてみると、完成品だけでは見えない判断の変遷が残っていた。最初はどう考え、何を根拠に変え、どの修正を採用せず、何がまだ分からないのか。その情報を、次の担当が使う注意書きにまとめた。
現時点で大切にしたいのは、次の八つである。
- 原資料と作業コピー、採用する版を分ける。 「最新版らしい名前」だけで選ばない。
- 内容を読む前に文書の境界を確認する。 読解中に疑義が出たら原頁へ戻る。
- 大量処理の前に小さく試す。 途中でも原目録と本文を照合し、ずれが広がる前に止める。
- 概要と原文を両方向に見る。 誤った説明だけでなく、重要事項の抜けも探す。
- 不明の理由と次に必要な材料を残す。 空欄をもっともらしく埋めない。
- 完了報告や監査案にも根拠を求める。 別担当の同意を、独立した確認と取り違えない。
- 修正の採否と、保存先への反映を追う。 直した説明と古い値が同じファイルに残っていないか見る。
- 失敗した指示と引継ぎを保存する。 次の人間とAIが、同じ遠回りをしなくて済むようにする。
9月10日には共通のAI作業指針を作り、対象冊ごとの補足へ進める参照案内も用意した。7つの状況を使った文書上の模擬確認では、未確定の値を勝手に埋めず、必要な確認へ進む対応を確かめた。ただし、実際の史料整理で間違いや手戻りがどれだけ減るかは、これからの検証になる。
まだ、次の頁の手前にいる
二か月を振り返ると、AIを使っても確認ややり直しはなくならなかった。その一方で、検索できる文書の入口ができ、人物事典やコラムへ広がり、失敗を次の注意書きに変えるところまで進めた。
今は、すべての概要整理が完成した段階でも、最適なAIの使い方を発見した段階でもない。これまでの失敗を踏まえ、次の概要整理へ戻るために作業場を作り直したところである。
保存と代表処理の確認はできた。実際の概要整理で、この運用と新しい指針が誤りや手戻りをどれだけ減らせるかは、次の作業で確かめたい。うまくいけばその結果を、また失敗したら直した理由を、続きとして残したい。
AIにも島津史にも詳しくなかった個人が、何につまずき、何を調べ、どう任せ方を変えたのか。数年後に読み返して、今の方法になった理由が分かる。その記録にも、この試みを続ける意味があると思っている。
本記事の制作について
本記事は、旧記雑録ガイドの制作会話、失敗事例の受領・評価記録、研究データの棚卸しとSSD運用の記録をもとに作成しました。構成・草稿作成・記録の照合に生成AIを使用し、整理を担当したCodexにも今回の作業記録を振り返らせました。別担当AIによる記録確認と原稿レビューも行っています。
本文の「私」はサイト運営者を指し、記録に残る発言・本人回顧をもとに文章化しています。公開にあたっては、サイト運営者が内容と自身の体験に合う表現かを最終確認します。
使用AI:Codex/GPT-6 Astra(gpt-6-astra)。 作成日:2026年9月10日。